ネーミングの妙というのはあるけどさ…… このエントリーを含むはてなブックマーク Clip to Evernote

Ajaxの“彗星”とともに現われたチャットサービス“Lingr”を使ってみた』というASCII24記事にもあるけれど、すでにある商品/コンセプトに新しい名前……つまり『ラベル』を付けることで、人々がその存在を認識し、広く知られ、使われるものになるということは、ままあることです。

「Web 2.0」にしても「ロングテール理論」にしても、すでにあった事象に対して、分かりやすい名前が付いたことで、はじめて広く理解されたことの代表例とでもいっていいでしょう。実際、Web 2.0とタイトルに付いた書籍や雑誌は書店の平台を占拠していますし、どう見ても1.0以下なのに「Web 2.0的」と自称する痛いTV番組まで出てくる始末です。

まぁ、それに対する人々理解が正確かどうかは脇に置いておくとして、ですけどね。

そういう意味で興味深いのは、松下電器が8月に発表し、現在交通広告などを絶賛展開中の“D-snap”シリーズのオーディオプレイヤー『SV-SD800N』です。

「騒音キラー」と言い替えるという発想はすばらしい

iPod全盛のこの時代に、SDカードに拘り続けざるを得ないところは、なんとも言えない悲しさを感じざるをえませんが、この商品の最大にして、おそらく唯一のスゴサは「ノイズキャンセリング・ヘッドフォン」を「騒音キラー」と呼称したことでしょう。

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デジタル家電やオーディオに目のない人々なら、ノイズキャンセリング・ヘッドフォンなんて当然知っていて、持っている人は昔から持っている類の製品です。もちろん、ピュアオーディオ的ベクトルとはまったく反するコンセプトの製品なので、知ってはいるし、一応は試したけど、自分は持ってないという人もいるでしょうけど、いずれにせよ目新しいものではありません。

知らない人のために説明しますと、それはヘッドフォン部分にマイクが組み込まれていて、そのマイクで収録した環境音を逆位相にしたものをヘッドフォンから鳴らすことで、外部のノイズを低減させる仕組みです。「逆位相」とか言われても「???」な人も多いかもしれませんが、「雑音(noise)」を耳栓のように遮断するのではなく、積極的に「打ち消す(canceling)」のがポイントです。まさに「ノイズキャンセリング」であり、技術系の人にとっては、極めてわかりやすいネーミングといえましょう。

私自身は、ソニーの昔の製品MDR-NC11を愛用しているのですけど、音質や装着感には不満はあるものの実際に飛行機や電車での移動中や、サーバ類と空調の轟音にさらされているデータセンタの中などでは、それなりに効果を実感できます。

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もっとも、密閉度の高いカナル型と言われるインナーイアー型のヘッドフォンなら、それ自体、外部の音を通しにくい構造なので(耳栓っぽい)、通常の騒音環境下で音楽を聴くという目的のためなら、実はノイズキャンセリングのために掛けているコストを、音質向上のために使った製品のほうが適しているのではないか、と感じつつある今日このごろでもあったりしますけどね。

もちろん、元々は戦闘機のパイロットなどのために開発され、実際、ヘリコプター、小型飛行機のパイロットやF1のピットクルーなどのためのヘッドセットなどとして使われている技術で、そういう場面では極めて適しているのは間違いありません。

まぁ、そんなこんなで、効果は結構あるけれど、ネーミングも含めて非常ーにわかりにくいコレに「騒音キラー」と名付けた松下はやはりすごいと言わざるをえません。

真面目な技術屋は、おそらく一生掛けても思い付かないし、むしろカッコワルイと感じるネーミングですから。

もしかしたら、誰も見向きもしてくれなかった(失礼)、D-snapが売れてしまうかもしれないな、なんて思ってしまったくらいにインパクトがあります(しつこいけどロゴも含めてカッコ悪いとは思うけど)。

実際には、iPodに他社のノイズキャンセリングヘッドフォンを組み合わせれば、iPodの使いやすさに「騒音キラー」の機能も付けられてしまうわけで、商品自身は負けてますが、わかりやすさでは、断トツに勝ってます。

しかし「世界初」というのはいただけない

しかしながら、これについて非常にいただけないのは、広告などに「世界初 『騒音キラー』搭載」とか「騒音を先進技術でカット」と書かれている点です。

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もちろん、「世界初」というところには注が附されていて、広告の端っこに、誰も読めないくらいの下手すると8Qくらいの小さな文字で「ノイズキャンセリング機能付き高音質密閉型インサイドホン付属のSDオーディオプレーヤーとして」という脚注はあります。まぁ、広告での常套手段ではあるんだけど、これはやりすぎ、マジでいただけない。

だって、商品自体は実質的にオーディオプレイヤー本体と専用のノイズキャンセリングヘッドフォンのセットでしかないんですよ。世界初なのは「騒音キラー」こと「ノイズキャンセリングヘッドフォン」なんではなく、それと「SDオーディオプレイヤー」をセットにしたってことだけなんですから。

まぁ、スペックを見る限りでは、いちおうプレーヤー本体からヘッドフォンの電源を供給しているようですから、確かに一体化した商品だと言え、多少の言い訳は立つとは思いますけどね。

それに、ノイズキャンセリング技術も「先進技術」などというのもとんでもなく、元々はボーズ社が航空機用のヘッドセットとして開発をはじめ、その技術を使った製品も1989年から市販されています。米軍でのテストは1985年には行われていたといいますから、もう20年も前に開発された技術なんです。オーディオ用の一般向け製品に限っても、ボーズのQuietComfortは2000年発売。ソニーのMDR-NC5も結構古かったように記憶していますので、おそらく同時期でしょう。当の松下さんも昔から製品を出しておられたはず。

わかりやすいネーミングを付けるというのは、確かに大切なんですが、それはあくまで商品の質がよかった場合の話です。ノイズキャンセリング技術を「騒音キラー」と呼んだのまではまぁよかった。でも、それを無理矢理「世界初」とうたってしまった、この広告はちょっとやりすぎ。実際にはニュースリリースにも世界初と書かれているので、普通の新聞だとそのまま報道していたかもしれませんね。

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